衛星の西。
■ 前掲(緑坂 6092)「戦場の掟」という本の原題は「Big Boy Rules:America's Mercenaries Fighting in Iraq」である。
2008年度のピューリッツァー賞を受賞している。
徴兵制がなくなったアメリカでは不足する兵員を補充するため、輸送・警備などの業務にPMCという民間軍事会社を使用するに至った。
PMCの社員はおおむね軍経験者。銃器の取り扱いに長けていなければならない。
戦争のアウトソーシング。数百社が存在すると言われているが、最も有名なそれがブラックウォーター社である。
傭兵と呼んでしかるべきものだが、彼らの死は公式の戦死者数には含まれない。交戦規定というものもなく、皆「Big Boy Rules」によって行動している。
ちなみに2004年ファルージャでの市街戦は、4人のアメリカ人、ブラックウォーター社の社員がブルックリン橋においてイラク市民に惨殺されたことを発端としていた。
同じ国籍ということもあるが、OBが殺され橋げたに吊るされたという事態に世論も海兵隊員も沸いたのである。
■ ピューリッツァー賞には色々と批判もある。私も時々、こうした物の見方はどこからくるのだろうと少しうんざりもするのだが、どの国の賞であるかを思い出せば半ば納得もいった。本書はさすがに密度があって、読み通すにはかなりの時間がかかる。正直言えば私の場合精読したとは言えない。
ひとりの若者、コーテを軸に話は進んでいく。
「両親の離婚、自分のスラム街の不良の『団』、いっぱいいた恋人。大学での専攻を変えたこと。月明かりが射し込むなかで、話をしているコーテの横顔を見ていると、こんなイケ面の身に何かが起こるはずない、だからこっちも心配ない、と思えてくるのだった」(前掲:12頁)
■ 実を言えば本書プロローグのそこに、既に物語は含まれていた。
下町育ちの屈託のないアメリカの若者。志願してイラクへいき、戻ってから大学へ入る。大学ではヤマハの高性能バイクに跨り、スピードとスリルを味わう。
次第に大学にも街にも染めなくなってしまい、PMCと契約を結ぶ。正規の軍人の際1967ドル70セントだった月給が、2年後再びイラクへ来た時には7000ドルに変わっていた。これは准将並みだが、これでも安い方である。上司は40代半ばの元海兵隊員で、いくつもの仕事を転々としながらうまくゆかず、家族のために再びイラクへ渡る。
家族というのが別れた妻と子であるかは誰も問わないことになっている。