霧深き日 8.
■ 今は高層マンションになっている坂道の上辺りは周囲が塀垣で、中は広い駐車場になっていた。
元は屋敷だったのだろう。見事な御影石がそこいらに転がっていた。
随分と前、その辺りに迷い込んで、そこに駐まっているシトロエンのDSか何かを見た覚えがある。一台置いた辺りにCXがいて、普段はそれを使われているようだった。
私は車を持っていたのだが、欲しいものはまた別にあり、つまり指を咥えていたのである。
■ 近くには国営放送が運営する交響楽団があった。
向かいには小ぶりなホテルがあり、そこにはアルファの尻が尖ったスパイダー、つまり初代のものだが、がいつも駐まっていて、坂道を昇り降りする度、その焼けた塗装を眺めては、粋なものだなと別の世界を夢想していた。
■ 90年代のいくつかはじめ、街はまだ爪先立っている。
ロクなものも食べてもいないのに棚に洋酒の瓶を並べ、ササキか何かのグラスを揃え、今考えると定食一食分の漫画を買っては友人と電話で感想を述べあった。