霧深き日 6.
 
 
 
■ 街は変わっていたが薄い匂いは同じだ。あれから十年は経っている。
「どうして別れたんだ」
「逆の理由。わたしが浮気をしたの」
 産毛を風が撫でてゆくような気持だ。
「昔は金がなかった」
「今だって、そうじゃない」
 すこし歩いた。コンテナの傍で唇をみたが、近づくとすこし怖かった。
「傷を嘗めて」
 晃子が言う。ブラウスのボタンを外し、唇を胸に近づける。
 塩だ。
 
 
 
■ そんなフレーズを思い出しながら、制限速度の辺りで走っている。
 大体は抜かれ、あの尻はマレーシアで作っている国産の小型車である。
 平面のデザイナの直感だが、仏像をヒントにしているような気がしないでもない。
 流すのは、ジャンゴもステファン・グラペリもいいのだけれど、ここは案外にマドンナが合う。
 当時、それほど好きではなかったのだが、今聴くと声が低い。
 既に本人が老けているのがいい。