ホイト坂。
 
 
 
■ 青森県のある町に、そういう名前の坂があるという。
 天明の飢饉の頃、藩外から流民が辿りつき、坂を登りきれず果てたからだとされる。
 歴史家や詩人である山田野理夫さんの「東北怪談全集」(発行:荒蝦夷)を捲っていると、以下のような怪談があった。
 岩手の話である。引用させていただく。
 
 
36番:女乞食
天明年間は飢饉が続き、空腹をかかえたものが南部遠野城下に流れてきた。
その中に三つ四つ子供を連れた女乞食がいた。子供は、なにか食べたい、食べたいと泣きじゃくった。女乞食はやさしい声で叱った。誰でも腹が減っているのだよ。泣くな。泣くな。
子供はあきらめて黙った。
 
それからしばらくして突然、女乞食は子供を抱えると、早瀬川岸に走っていって、石で子供の頭をなぐりつけた。子供の頭はザクロのように割れて死んだ。女乞食は死骸を川の中に捨てた。女乞食は川で顔を洗うと、何事もなかったかのように立ち去っていった。この様子は多くのものたちが見ていたが、あまりに不意のことなので、誰も手出しはできなかったというのだ。
 
女乞食はまるで別人のように微笑を浮かべて美しい女になっていたそうである。
その後、殺された子供は河童に化身して、川原で遊んでいたともいう(前掲:68頁)。
 
 
 
■ 引用部分だけで充分なのだが、そうもいかないので続ける。
 最後の二行。
 これが後の救いになろうかとしている。