人工水晶体。
 
 
 
■ という吉行さんの名作がある。
 インテリにしか分からない諧謔と透明な世界が描かれている。
 インテリ、と書いてしまうと公論や世界の流れになってしまうのが常だが、そういった知的権威云々ではない、妙齢の背中に生えた案外に黒い毛を眺めているようなお話である。
 
 
 
■ 40代の半ばくらいから老眼になった。
 車の中で細かい地図を読む時に、見えにくいなと自覚することが何度かあって、丁度その時隣に乗っていた妙齢本格派の友人が高笑いしたことを覚えている。
 一発小突いた。
 
 
 
■ 背中の産毛というのは、本人にはわからない。
 それを口にしていいものかどうか。
 数年馴染んだ後、剃刀をあてることになる。