顔の大きな佐分利信。
■ 例えばビール瓶を出すという。
始めは大瓶を使い、その後のカットでは小瓶に置き換えたりする。
大瓶のままだと、画面上で目障りに成り過ぎるからだが、考えてみれば小細工なんてものじゃない。ほとんど広告写真の世界である。
同様に、ある女優を2.5メートルで撮って、その後佐分利信に切り替わるとき、すっと3メートルまで引く。
同じ位置とレンズでは画面に大きく写りすぎるからだという。
■ 今ならズームか、というとまたそうでもなくて、微妙に背後のボケ方が変ってしまう。
基本は50で、そしてゴザの上に置いた「蟹」と呼ばれた三脚というか台座で、這いずりながら構図やカットを決めていく。
動画と静止画というのはまた別の文法だが、確かにこれ一本で撮ると決めた時の方が実は良いものが出来たりもするものである。
■ 撮影後の小津組のスナップを見ていると、確かに佐分利信の顔は大きい。
小津監督より一回りくらい膨らんでいるような感じもして、あれはなんという映画だったか、セットのバーにふらりと入ってくる場面を思い出した。
田中絹代さんが奥様役のそれである。