東京の桜。
■ 先日、北へ出向いた。
橋を渡る手前、境目のあたりである。
右へ左へとそれると上に高架がある細い道がある。金網が貼ってあって、その中に一本の桜の木が咲いていた。モルタルなのか、灰色の建物の前で、そこだけが薄明るい。
子供が飛び出してきたり、青シートを抱えた家のない男たちがのろのろと歩いている。 学校がありスーパーがあり、商店街が短く続いて、それから線路があった。
■ 東京の桜といえば上野だという。
もともと吉野あたりから植樹されたものが広まったということだが、満開の頃、出向いたことはない。
広重に「上野清水堂忍ノ池」という作品があるが、どちらかと言えば凡庸な構図で広重らしさはあまり感じられなかった。それよりも「王子音無川」に配された青がよく見えてくるのだから不思議である。青と緑と花色の対比、と言えばいいか。
広重には夜が似合う。あるいは雨や雪である。
■ あるとき花というのは俗っぽさの象徴である。
俗を拒絶しようと思ってもできないのが生身の人間なので、例えば西行の歌などには案外に生臭いところが残る。
だからどうした、ということはないが、線路沿いの団子屋によるべきかを考えていたら、携帯に催促が入った。