草競馬流浪記 2.
■ この本は、名作「世相講談」の随分後に書かれたものである。
内田百?の「阿呆列車」シリーズを下敷きにした道中記なのだが、山口さんは内田さんの半ば弟子のようなものだったから、流れとしては自然である。
馬の名前を漢字に置き換えたりしているところは、すなわちそうだ。
「世相講談」というのは山口さん初期の傑作で、向田邦子さんが「わたしはそれ以外認めない」と、言ったとか言わないとか。
仲の良い者同士のじゃれ合いのようなものだが、奇妙に納得もしてしまう。
実を言うと私もこれほどコクのある、つまり元手がかかっている短編は、そう多くないだろうと思っていた。
■「草競馬流浪記」も「世相講談」も、一晩で読み通すには辛い。
思い出したようにぱらぱらと捲るという性質のものである。
「世相講談」と確か同時期に、開高健さんの「ずばり東京」という傑作ルポがあったが、これもかなりのモトデがかかっていて、緑坂で何度か書かせていただいた覚えがある。
■ そういう話をしているのではなくて、ええと。
つまり
「いかがわしいという感じが好きだ。それから、何事によらず一生懸命というのが好きだ。むろん祭りが好きだ。
この競馬場、それが渾然一体となって充満している。
僕は有頂天になり、ほとんど狂喜した」(前掲:17頁)
いかがわしさ、というものについてなのである。