わかい木 1932-3.
■ 私は若造だった。
分ったような顔をして、何も分っちゃいなかった。
「あら、今は違うの」
という声があちこちから聞こえるが、何もリエゾンでなくてもいいとはおもう。
■ おいら八ツ山から先なんて年に数回しか行かない。
八ツ山とは、旧江戸と東海道を分ける品川にかかる陸橋である。
かつてはその下を水が流れていた。
少し高台になっていて、ゆっくりと曲がってゆく海老茶色の電車の踏切がある。
教会がありホテルがあり、それから御殿山のお屋敷町とその坂下がある。
■ 東京でいうところの下町。
例えば滝田ゆうさんの描く界隈と、少し先の銀座界隈とでは、ひとの流れも物の流通も、もしかしたら違っていたのかも知れない。
「幕末太陽伝」という日活の名作があるが、いい気なお坊ちゃまとそうではない階層とのドタバタを、裕次郎とフランキー堺さんが演じていた。舞台は品川宿である。
フランキーさんはモダンボーイそのもので、ジャンルは違うにせよ三木トリローさんの流れを確かに汲むスタンスと演技である。
これは何処で撮ったんだろうな、と捜しにゆくのだが、今はクリークの脇に薄いマンションが建っていた。