■ 公安のパサートがサイレンを鳴らし二台向かってきた。
一台が交差点に斜めになった。抜けられない。
が、公安の車はそのままバックする。
「これもWJ」
走羽が言う。
なんのことかわからない。脇をすり抜け、T字路に突っ込んだ。
速度が出過ぎている。私は大きくハンドルを切った。
ジャガーのダンロップは限界までたわみ、路面を掴みきれず尻から流れた。
オートマのセレクターを指先で押す。
ニュートラルにして駆動を切る。
サイドブレーキで後輪をロックさせた。カウンターをあてる。
指先でドライブに入れ、鈍いショックの後、浮かせていたアクセルを踏んだ。
古い十二気筒は雄の黒豹が唸るように低い姿勢から速度を上げてゆく。
僅かにアクセルを戻す度、SUの四連がぼこぼこ不平を言った。
バンドだ。
旧租界地帯の建物が並んでいる。
ライト・アップされ、街灯がいらないくらいだ。
中国通商銀行、日清汽船、アクベインと呼ばれていたビルが一瞬に流れてゆく。
私は北沢のフェラーリを追って南下した。
「456GT、プラス2」
走羽が呟く。
通りが広くなった。
速度計は九十マイル近くを指している。