三〇 九曲橋
■ 昼前に走羽から連絡があった。
一時間でむかえにくるという。
私はのろのろと起きあがり薄いコーヒーを飲んだ。
葉子にベレッタを渡す。別に驚くでもなく葉子は銃を四つに分解している。マガジンを入れると五つだ。確認すると手際よく組み立てた。
私は黒いナイロンベルトをひとつ渡した。マガジンが何本か入っている。
「でも、どこにゆくの」
葉子は尋ねる。
私は曖昧にごまかした。暫くここで待つように言う。
携帯電話が鳴り、エントランスへ降りてゆくと門柱の影に走羽が待っている。
バンではなく、アウディの五気筒に乗り込んだ。上海にはドイツ車が多い。彼等は現地工場を持っている。
運転席にいるのは二十代後半の男である。髪を短く刈り上げている。
私たちは延安東路トンネルを下り、南京路に入った。路肩に停まる。
「観光をしましょう」
走羽が持ちかける。私は彼の後に続くことにした。
車を降り、南京東路を歩く。平日の午後だというのに、驚くばかりの人波である。走羽を見失い、首を振っていると彼が背後から肩を叩くということが二度あった。
ショーウィンドーの中には輸入物のブランド品が並び、それを扱う店員もまた細く垢抜けている。