二三 ダスカ
■ ファクスは真壁からのものだった。
「明日、上海大厦に訪問します」とある。
調べはついているのだろう。
私はホテルのボーイを介し、メッセンジャーを頼むことにした。髪の短い少年がボーイから封筒を受け取り、通りに飛び出してゆく。
日本円で礼をすると、ボーイは無表情に紙幣を受け取り胸ポケットに入れた。
夕刻、私は部屋を出て旧租界地帯の裏通りを歩いた。大世界・ダスカの入り口の前に立っていた。次第に廻りは暗くなる。人並みが流れ、忙しい言葉が私の前をいくつも通っては消えた。道路の向こう側に屋台が出ている。湯気が立ち上っている。
何本煙草を吸っただろう。舌がざらついてきた。立っている腰の辺りがだるくなる。
背中から右肩を叩かれた。振り向くと髪の長い女がいる。
彼女は夢梁(モンロン)と名乗った。聞かない名だ。
「伝言を受け取りました。妹がお世話になったそうで」
江菫の姉である。歳は二十七くらいか、瞳が大きかった。
短いスカートから出ている脚が綺麗だ。飾りのあるハイヒールを履いている。〈夢梁〉というのは源氏名なのだろう、江菫よりも細い躯つきだが腰のあたりに力がある。
夢梁は私を促し、ワンブロック先の茶店に入った。
「それで、わたしは何をすればいいのかしら」
彼女は細いパイプに煙草を差し込みながら言う。私はライターを取り出し、彼女の前に置いた。