十七 そこにある黒
 
 
 
 
■ 外に出ると湿気がひどかった。
 一度に汗が出る。私はそのまま歩いた。病院の裏手の路地を自動販売機が並んでいる一角まで歩き、そこで立ち止まった。
 側溝がある。コンクリの蓋がしてあり、隙間から黒い水がみえている。
 病練からの廃液が流れているのだろう。首をかしげるとギラリと水が光った。
 背後から車が追ってきた。私を迎えに来た男が車から降り、私を呼び止めた。
「送ります」
 彼も汗をかいていた。私は車に乗ることにした。幾つかの角を曲がり、高速に乗ろうとする。
「あなたも麻取なんですか」
 私は男に聞いた。
「いえ、わたしは水上警察の警邏です。あなたのことは、昨年署内でおみかけしました」
 エアコンの温度を操作しながら男が言う。
「神奈川県警がどうして出張るんだろう」
「本庁から連絡があって、わたしが行くよう指示されています」
「いつもは水色のシャツを着ているんだね」
「時々、自転車にも乗りますよ」
 男は慎重に車を運転していた。時折、かなりの速度差で脇を抜かれる。その度に彼の中で何かが沸き、静まるのが私にはわかった。
 赤坂の交差点近くで降ろしてもらう。
 男は私に携帯電話を持ってゆくように言った。
「そのように言われているんです」
「いや、いらない」
 彼は人を撃ったことがあるだろうか。撃たれたことも。
 私は夕方に近い赤坂の街を通りの方向に歩いた。背の高いホテルの一番上に昇り、黒ビールを頼んでぼんやりした。駅近くの食堂で夕食をとり、地下鉄で自分の部屋に戻った。