■「これをみて貰いたい」
真壁がスチールの机の引き出しから、一束になった書類を取り出した。そのうちの一枚を手に取り、私の傍に近づいて渡す。
私はそれを眺めた。そこには何人かの氏名と肩書きが並んでいた。
「議員のリストです。地方レベルのものは割愛してある。後ろに書いてあるのは所属している政党名です。もっとも、離合集散しますから明日はどうなっているかわかりませんがね」
真壁の眼鏡に蛍光灯が映っている。表情が読めない。
「対中貿易に異常な程積極的な人物ばかりです。政党を問わない。ご存じのように我が国でも大規模な国際金融都市計画がありましたが、現在暗礁に乗り上げています。中国も国力を挙げ、幾つもの経済特別区政策を進めているがその前途はそう簡単なものではない」
私は頷いた。私の傍から真壁が離れ、椅子に座った。
「こちらへどうぞ」
私に椅子を勧める。私は折り畳みのパイプ椅子を引き寄せ、その上に座った。
「経済レベルで連携しているうちはいいのです。問題はそうした巨額の金が動くところには必ず裏の世界が付随し、時としてそれが表に出てくることです」
「覚醒剤のルートがあるんだな」
「そうです。それも、いまだかって経験したことのない規模のものが予想されます。ご存じかどうか、こうした覚醒剤には薬紋と言われる人間でいうところの指紋のようなものがあります。薬物指紋といいますが、このところ中国からのものと思われるものが急速に浮上してきた。今回冴さんから検出されたものもそうでした」
「台湾じゃないのか」
「ええ、日本に運び込まれる覚醒剤は、一九八○年前後まで韓国製のものが主流でした。我々と韓国側の努力によってそれらはほとんど撲滅されています。近年、中南米や香港・台湾からのものが目立ってきていたのですが、今回のものはそれとは明白に薬紋が異なっている。さらに、台湾ルートの中にも同じ薬紋のあるものが増えつつあるのです」
「それがどういう意味を持つんだ」
私は真壁に尋ねた。
「おそらく、中国本土で大量のメサンフェタミンが製造されている。場所は特定できませんが、それが直接ないしは香港・台湾に流れ、日本に流出してきているのだと推測されます」
梅雨の残りか、地下室の空気は湿っていた。
私は両腕のだるさを感じながら何か別のことを思い出そうとしていた。