五五 砲撃
■ 銃声がした。それは遠くから聞こえ、あたりに響いた。真壁を牽制していた戦車の上の兵士が崩れる。
銃声の方を捜した。
百メートル程離れた植え込みの影に灰色の車が停まっている。
シトロエンDSだ。
白いシャツを着た男が車に乗り込んだ。こちらに向かってくる。
走羽が背中に手を廻し、ベレッタを引き抜いて連射した。
並んでいる中国兵の何人かが倒れた。走羽が横転して建物の影に隠れる。
中国兵の銃口はDSに気を取られ、私たちから離れていたのだ。
私はイングラムを拾い、戦車の方に走った。
北沢の姿はない。
真壁が戦車の上から飛び降りて芝生に転がった。
DSが近づいてくる。車体をバウンドさせながら、植え込みや芝生をそのまま突っ切ってくる。ハイドロニューマチックのサスペンションを一番高い位置にしているのだろう。地上高が普段の数倍もある。
戦車の砲塔が回転した。
DSを砲撃するつもりだ。
葉子がぶら下がったままだ。葉子は斜めに揺れる。
砲塔の上についている探視装置が赤くなった。
私はイングラムを両手で持ち、葉子の手首上のロープを狙った。
セミオートにし銃が暴れないよう祈った。距離は五メートル。
二連射目でロープが切れた。嘘みたいだ。葉子が下に落ちる。
同時に、戦車が砲弾を発射した。
オレンジ色の排気が目の前に広がった。
すさまじい発射音だ。私は数メートルほど吹っ飛ばされ転がった。
髪の毛が焦げている。口の中が砂でじゃりじゃりする。イングラムをつかみ、四つん這いになって芝生の上を逃げた。
葉子と真壁は戦車から離れようとしている。低い樹木の影に隠れる。私も傍に寄った。