■ 事件の後、暫くのあいだ奥山は晃子の身辺を護衛していた。
携帯電話を一台持たせ、その短縮番号が奥山直通になっていたという。
「勿論、捜査の必要からそうしていたのよ。北沢やその仲間から、接触があるかも知れないじゃない」
それはそうだ。しかし晃子は肝心なことを省いている。
「それだけじゃないだろう」
私は尋ねてみた。
晃子が黙る。私は吉川の顔をみた。持ち上げた彼のグラスが暫く止まった。吉川は残った酒を頭を後ろに傾け、一度に飲んだ。
「苦い酒だな」
吉川が口にする。彼はもう一杯をバーテンに頼んだ。
「まあ、気持ちの面ではね、それ以上じゃないわ」
晃子がぽつりと言う。なるほど、と思った。 晃子は奥山に好意を持ったのだ。
吉川は三杯目を飲んでいる。私も続けて貰うことにした。
「奥山とは十年来のつきあいだ。大学の後輩にあたる。だが、奴は途中でやめ、別の大学の薬学部に入り直した。なんで麻取になったのか、そう言えば聞いたこともなかったな」 吉川が話し始めた。