八 偽装
 
 
 
 
■ 厚いコンクリの手すりのある階段を昇ると灰色の鉄製のドアがある。
 晃子がブザーを鳴らした。覗き窓が開けられ、チェーンの外れる音がする。ドアが開いた。制服を着た婦人警官と看護婦、それから看護士のような若い男が中にいた。
 二十畳ぐらいの部屋だ。奥にもうひとつ部屋がある。
 遮光カーテンが閉められ、部屋の脇にベットがあった。奥山が寝ている。廻りにはいくつもの医療器具が並んでいて、太い電源コードが何本も床を這っていた。
「気分はどうかしら」
 晃子が奥山に尋ねる。
 彼は肘を使いベットの上に起きようとした。右肘から肩にかけて三角巾が厚く巻かれている。看護婦が手を貸す。五十歳くらいだろうか、婦長クラスなのだろう、看護婦は表情をみせなかった。
 奥山は眼鏡を外していた。顔色は古くなった土に似て、もともと色白の肌に唇だけが紫色に目立っている。死線をさまようとこのような表情になるのだろうか。彼の眼はすこしのあいだ遠くをみつめ、それから脇の棚に置いた眼鏡を手に取った。
「まあまあですね」
 私は黙っていた。吉川も後ろにいる。
 
「奥山さんはね、右肺をライフルで撃たれたの。車が爆破されて、先に乗ろうとした同僚は死んだわ。すこし遅れた奥山さんは助かったのだけど後ろから狙撃され、十時間近くかかった手術で一命をとりとめたの」
 晃子が低い声で言う。