■ 葉子をみた。
裸足で走っている。コートの裾が翻って、白い肌に綿のロープが念入りに巻き付いている。縄の下は裸だった。
炎の中を突っ切った。熱くはない。
ポルシェのドアに前輪をぶつけた。
挟まれた北沢がよろめく。
そのまま左に逸れ、コンテナの影まで加速した。
追い付いた葉子を拾う。
W1Sの小さなシートに、縄を食い込ませた葉子がまたがった。倉庫の裏側、B突堤が見える広い船着き場を加速してゆく。
前が塞がった。
後ろにコンテナを積んだ大型のトレーラーが、動く壁となってゆっくりバックしてくる。仲間がいたのだ。
赤く塗られたコンテナには、「公洋貿易C&C」とある。
いつだったか晃子が言っていた。
毛沢東思想はいくつもの形をとって日本に残った。あからさまな例が、親中共派系の過激派集団だったが、重信率いるJRAに関しては、発足当時の、「連合赤軍」とは明らかな断層があると言われている。親中共系の団体のいくつかは合法的な会社を作った。今となってはそのほとんどがただ利潤を追うだけのものになっている。税関の傍にあったこの会社も、いくつかの企業の窓口になって莫大な利鞘を稼いでいるのだろう。
大きく車体を傾け、私は逃げ道を捜した。浅いバンク角にキャプトン・マフラーが火花を散らした。
北沢のポルシェが近づいてくる。右肩が熱を持っている。