■ 丸いライトがボディに埋め込まれる直前のカレラだった。
 チューンしたとはいえ三十年近く前の単車がかなう訳もない。
 そんなことは始めからわかっている。
 私は銃を持たず、剥き出しの単車でここにきた。傷を負わせるつもりなら、幅寄せすれば簡単に出来るだろう。
 速度というのはいつも幻想の部分を含んでいる。かといってそれを否定してしまうことは、割り切れない幾つものものを無かったことにしてしまう。
 私はゆっくりとUターンした。
 セカンドとサードで加速し、二気筒の排気音を楽しんだ。
 突堤の一番端にポルシェは停まっている。後ろは黒い海だ。
 声の届くところ、顔が辛うじて見えるところで止まりW1Sのスタンドを掛けた。エンジンを切る。
 ポルシェのドアが開かれ、男が降りた。
 背の高い、肩幅の広い男が北沢だ。
「よお」
 声にならない笑いをどちらも浮かべている。