■ シフト・ダウンしながらブレーキを握った。
 後輪がロックして車体が振れた。
 メーターは八○から下がらない。
 丸い尻が眼の前にある。
 脇はコンクリのブロックだ。
「飛ぶのよ」
 葉子が耳もとで叫ぶ。
 アクセルを開いた。
 鈍いショックがあった。
 ポルシェのなだらかなテールに乗り上げた。
 そこで立ち上がり、ハンドルを手前に引いた。
 軽くなる。
 空だ。
 ベイ・ブリッジが低いところにみえた気がした。
 何台もの車のライトを浴びている。
 W1Sは大恐慌の時、エンパイア・ステートビルによじ登った愚かな猿のように吠えていた。
 落下した。