■ 視界に赤い光が入った。いくつもある。
 警察車両だ。包囲するように、突堤の一番先をめざしている。
 サイレンを鳴らしている筈だが、風と古いエンジンの騒音で耳に入らない。
 ポルシェを追う。
 突堤の外れが近づく。
 角のところ、点滅する岸壁のマーカーのあたりに北沢は向かっている。
 まっすぐだ。そのままゆくと海だ。
 奴は落ちるつもりか。
 距離が縮まった。
 ポルシェの丸い尻がみえる。
 カレラ、と書かれたエンブレムすら読めそうだ。
 北沢がブレーキをかけている。また横になるつもりか。
 ハンドルは切らない。
 ポルシェのブレーキは信じられないくらい効く。助手席の者が鞭打ちになるくらいだ。
 ガクン、と速度が落ちて突堤の外れで止まった。
 葉子が何かを叫んでいる。
 間に合わない。
 そうだ、前は海なのだ。