■ 眼が醒めると早い時間でないことがわかった。
 ドアの向こうで音がする。暫くうなってから起き上がる。晃子がコーヒーを入れている。
「なんだかうなされていたわよ。その後イビキ」
 口紅をしていない。
「呑み込まれる夢をみたんだ」
「あら、そう」
 シャワーを浴び髭を剃った。剃刀が錆びている。すこし顎を切った。
 私は何をしているんだろう。これから何をするんだ。
 晃子に、吉川と連絡をとるように言った。奥山の力も借りるように。
「あなたはどうするの」
「わからない」
 溜め息をついている。
 
「ちっとも変わらないわね。昨日、わたし危険日だったのよ」
「うん」
「銃は持ってるの」
「いや」
 後ろの頭が薄く痛かった。晃子は生理が重く、中の一日はほとんど寝てばかりいたことを覚えている。コーヒーで薬を飲んだ。
「懐かしいって訳でもないわね」
「そんなに緩かったかな」
「なによ、下手な癖に」
 私は上着を着て外に出た。
 冬の空は明るく、すこし目眩がした。
 上着のポケットからサングラスを出し、階段を降りた。
 低い屋根が続いている。
 十年前と同じ眺めだ。交差点で車を待っていると、ふたつ向こうの路地に晃子が住んでいたモルタルのアパートがあったことを思いだした。