■ ロシア革命の時のテロリストは、逡巡しながら人を殺したのだという。
 詩人の魂とテロリズムが両立できた時代もあったのだ。
 ポーランドにあった工業的人種廃絶の強制収容所に、カポと呼ばれる囚人頭がいたことを私はふと思いだした。
 彼等は仲間を統制するために選ばれ、時には本当の看守よりも残忍な手腕で同じ国の人々を進んで殺していった。そうでなければ自分の身が危うくなったのだ。
 北沢がカポであると思っていた訳ではない。
 溶剤を使い、顔もわからなくする方法があることを何処かで聞いたことがある。残った骨は粉砕器にかけるとただの粉になるのだそうだ。そうした方法が実際に可能かどうか、私にはわからなかった。けれども、拉致されて国外に連れ去られればそれで事は済んでしまう。
 北沢はそういって脅す。
 日常的なもの言いになっているところが不気味だった。
 奴は生っ粋のサディストなのだろうか。どうでもいいことだ。
 恐らく葉子は拉致された。フロッピーには何が入っている。
 二杯目を注ごうとした時、晃子が遮った。
 座っている私の傍に立ち、腕を廻して頭を抱いた。
 私は柔らかいセーターの胸に顔を埋め、声を出さずに言葉を発した。
 誰が何を試そうというのだ。