■「撃った時、どんな気分がした」
 私は尋ねた。葉子の眼が光り、フンと鼻が上をむく。耳が隠れる程伸びた髪が一度開き、躯を起こしてこちらを向いた。
 悲しんでいる訳でもない。怖がってもいない。葉子の姿はとりとめがない。
 私の座っている椅子の傍により、葉子は猫のように跪いた。
 私のバスローブを開く。スイッチが切り替わったのだとわかった。
 葉子が私を誘ったのはなんのせいか。
 話したのは何処までが本当か。自分がわからなくなるという。ノルビックの詩を覚えたのは私が喜ぶとおもったのか。
 女の敵は女だという。
 目線で、あるいは隠された口紅の下で、若い女は毎日何人かの同性を殺している。
 しかし、本当に銃を打つ訳ではない。そのように訓練されたひとがいることを私は知っている。撃たなければならない国に住んでいるひとも。中国の狐のような女は、北沢の女のひとりだった。葉子は北沢の子を孕んでいた。
 
 空調の音が微かにする。
 舌先が太股の内側を遊んでいる。
 髪が触れる。
 まだ一度にはゆかない。私は葉子を押しのけた。
「倉庫で晃子と何を話していたんだ」
 口紅がとれている。鼻の廻りに細かい皺がよって唇を丸めた。不満なのだ。
「晃子さんは、あの女に会ったら殺してやるといっていたわ」
「それだけじゃないだろう」
「ええ、あなたのことを聞かれたのよ。…あなただって共犯じゃない。銃を使わなかっただけよ」
「そうだ」
 後に続く言葉を捜したが、簡単ではなかった。
 腹の底でなにか冷たいものが動くのがわかった。