■ 土曜日になった。
私は地下鉄を乗り継ぎ、表参道に出た。
明るい通りからとって返し、ガラス張りの店を何軒か越した。注意深く眺めていると店の名前が随分変わっている。
いつだったかこの辺りで高いシャツを買ったことがある。
モデルをしていたと思われる眉毛の濃い男が胸元をはだけ、ツータックのパンツで説明をしてくれた。
金を払い、むかし雑誌でみたことがある、というと露骨に嫌な顔をした。
稚児が古くなると店に廻されるのだと聞いた。
古いと言っても二十代半ばでしかない。
坂をまっすぐ降ることはせず、左に曲がり青山墓地の手前の陸橋に向かった。
タクシーの後ろに見覚えのあるBMWが停まっている。
エンジンを切ってスモールを灯けている。
葉子は陸橋の橋桁にもたれていた。
下はキラー通りだ。黒い皮のコートを着て、短いブーツを履いている。
その下はスカートなのか、灰色のようにも思える。
私は脚を引きずっていることに気付いた。片方が硬直し、踵だけが擦り減るような気持がする。
「よお」
と挨拶すると、葉子が指をさした。
まだ低いところに赤と茶色の月があった。
大きくて斑な模様がはっきりとしている。
上の方が欠け、ビルの間から昇ってきている。
「この世の終わりみたいだね」
葉子がそんなことを言う。
横を向くとタワーが立っている。
一番上のところだけがみえなくて、晴れてはいるがガスが出ているのだとわかった。
空の上も風がないのだろう。