■ 電話を切って、すこしだけぼんやりとした。
夢であり、ここにこうしていることが偶然の産物なのだということをその時は信じた。
雨の中、オランダの俳優が死んでゆくシーンがあった。
電池が尽きるように、アンドロイドは短い寿命を終える。
チップに人為的なバグを混ぜているのかも知れない。バグはどの機械にもあって、有機的な筈の私たちも例外ではない。
「ビタミン・サラダ・カルシウム・弁当」
という冗談を事務所で誰かが言っていた。新製品のネーミングにどうだろうか、ということなのだろう。
有効成分を、単体で採ることが日常的になっている。
地方の医学生は、コンビニで買ったコロッケをつまみ、カルシウムの錠剤を噛みながらジャズ喫茶のカウンターで猫の腹を撫でていた。
彼女は瞳の大きな肌の荒れた美人で、薬に溺れた頃のアート・ペッパーが好きだと言っていた。時々男を替え、寂しいからと八階建てのマンションで暮らしていた。今は眼科医になって港の傍の病院に勤めている。
私はビデオを止め、酒を嘗めた。内側に篭る気配が濃くなってきている。
そういえば、トカレフはどうしたのだろう。
あの時、流れる自分の血のぬるさに新鮮な驚きを覚えた。
赤い血は暫くすると黒く固まり、シャツを脱がされる時、かさぶたが剥がれて痛んだ。