十七 低い月
■「今度の土曜はなにしてるの」
「年賀状の宛名書きだよ」
「日曜は」
「できなかった分を書くんだよ」
今年は土曜日がイブだ。私はメンソールの煙草を吸った。近頃、部屋に置いておき、思い出しては吸うことがある。
「食事にゆこうよ」
「東金はごめんだ」
「いいじゃない、髪もだいぶ伸びたし」
「東金がか」
「そうじゃなくてね」
葉子は私を誘っている。私は半身になっている。
この数年、クリスマスについては随分静かになっていたのだけれども、今年は街の様子が違っている。眼の色を変えたかのように宝石売り場にシャツを出した若者達が並んでいた。耳に穴を開けるのだそうだ。耳だけでいいのか。
「予約したのよ」
そこで腹が立った。冗談じゃない、昔からクリスマスには餃子とビールで一杯やることになっている。部屋に帰ってから、小さなケーキをひとつ食うのだ。そう言うと、葉子は電話に溜め息をついた。
「だから、餃子を予約したの」
私はすこし酔っていた。いい年をして、ロウソクの炎に揺れる女の顔を眺めていても仕方ないと思っている。油の浮いた壁の前で、蛍光燈の光に青ざめた毛穴を茫然と眺めているのが好きだ。
葉子がBMWで迎えにくることになった。