■ 電話が鳴った。昔すこし遊んだ女からで、今、恵比須の坂道で飲んでいるのだという。
「ブルー・マルガリータを四杯」
 知らない酒だ。
「男かえたんじゃなかったのか」
「そうなの、切れ間ってところね」
 何年か前のイブの頃、どう時間を合わせるのかで揉めたことがある。
 パーティに出ようというのだが、私は仕事が詰まっていた。そのパーティで知り合った男と暫く付き合っていたようである。
 ホテルの部屋を借りて集まることが、十年程前から暫くのあいだ流行った。
 自室が狭いから、そうするのだろう。
 坂道の途中にあるホテルは、二階のツインを全てそうした部屋に変えた。
 飲んだり食事をしたりする訳である。充分宿泊できるだけの料金で、アール・デコ調の椅子に座っているのは豪華なような気もした。
 その後、電車に乗らなくても良い場合ではあるが。
 
「今、どんなひととつきあっているのよ」
「四杯じゃないだろう」
 随分酔っているようだ。知っている頃は髪を長くし、時々はモデルのような顔をしてピアノを弾いていた。才能だけでは入れない、名の知れた私立の音大を出ている。
 私はぼんやりと話を聞いていた。ビデオのスイッチを入れ、音を消して眺めている。画面はいつも雨が降っているように思えた。
「代々木のツリーが変わったな」