十四 冬の動物園
 
 
 
■ 屋上の手前、病練の最上階に喫煙室があって、そこはガラス張りになっている。
 夜になると、遠くランドマークタワーの灯りがみえている。
 点滅している一本の帯は高速だろうか。何本かある。
 ガウンを着て煙草を吸っていると晃子が昇ってきた。
「お酒飲めなくてさみしいでしょ」
 私たちはビニールの椅子に座って汚れたガラスを眺めた。
 離れたところに老人が座っている。老人のようにもみえるが、実のところいくつなのだかわからない。病院の中で、そうした男や女を何人もみかけた。生気なく、口の中でなにかを呟きながら廊下をゆききしている。
 晃子は紫のスカートを履いていた。
 
「何十年かしたら、こうしてガラス越しに外を眺めているのかな」
「そんなに生きるつもりなの」
「どっちでもいいんだが」
 水の溜まった灰皿に煙草を捨て、晃子が笑う。
「でもねえ、あなた、どうしてこんなことに巻き込まれたの」
 外は風が強いようだ。ガラスに圧力がかかっている。
 私にもわからなかった。葉子という女を拾い、横浜で再会し、その時に寝た。トランクにトカレフがある。
 弾を買いにいったのは夏と秋のあいだで、新宿の外れの路地は油汗に香水を振りかけた匂いがした。肌色の違う女は髪を長くし、張り付いたスカートを履いて傍に立っていた。ボディ・スーツをつけなくても、僅かな肉の弛みしかない。
「悪い夢だったのかな」
「まだ、醒めていないようね」
 晃子の口調はすこしも変わらない。
 
「傷はふさがったのか」
「みる?」
「そのうちな、ぜひ」
 薄い桃色の制服を着た看護婦が昇ってきた。消灯だという。髪を上にあげピンでとめ、同じ色の帽子を被っている。
「あなた、ああゆうの好みでしょ」
 パジャマを着ていると、どうも言われやすいようだ。
 私は脇腹を撫でてみた。ガーゼの下で熱を持っている。