■ 自分の部屋に戻ってコートを脱いだ。
 白いコートは汚れやすい。それが良いのだとも思う。
 病院の中で、吉川と話すことはなかった。
 喫煙室に彼はこなかったし、その時はまだ起きられなかったのだろう。
 私も吉川も、そう広くはない個室に入れられた。他が満員だったという訳でもない。払いをどうするんだと思ったが、どういう訳か保険で足りた。
 葉子と晃子が時々見舞いにきた。病室で、持ち込んだコーヒーの豆を入れて飲んだ。電気の器具があったのだ。
 看護婦は薄桃色の制服を着ている。ラインが二本入っている。
 向こうにみえている巨大な練がここでは本体で、そこは有料の老人ホームになっている。湯沢にあるリゾート・マンションを平たくしたようにもみえる。全財産を献金すると最後まで面倒をみてくれる仕組みになっているらしい。信者が中心であると言う。
「君もそうなのか」
 と、尋ねると、
「仕事だから」
 と若い看護婦は笑った。
 すこし安心するが、それがどうしてなのかはわからない。