■ 十二月になった。
 地下鉄の階段を降りると、眼の黒い外国人がふたり昇ってきた。黒いナイロンのジャンパーを着ている。楽しそうでもない。
 私は坂道を脚を引きずりながら歩いていた。
 車のライトがぼやけてみえる。霧が出ている。一歩踏み出す毎に脇腹がひきつる。糸は抜いたが、まだ皮が薄いのだ。
 私は神奈川の丘陵の上に立つ病院に入っていた。
 そこは新・新宗教の団体が持っているもので、ぼんやり隠れているには都合が良かった。傷を整形するかと聞かれたが、更に期間が延びるので断った。
 吉川はまだ入っている。
 弾は脇腹から入り、肋骨を折って背中に抜けたのだ。至近距離ではなかったことと、二十二口径だったので軽く済んだ。
 手配は全て奥山が行った。病院を選んだのも彼だ。
 晃子が携帯電話で奥山を呼ぶと、セドリックのシートに炭酸カルシウムの袋を何枚も敷き、アンプルと錠剤を持って背広で現れた。
 私は車の中で、奥山に渡された錠剤を薄いコーヒーで飲んだ。そこからの記憶がない。
 吉川の重い躯をどのように運んだのか、今でもそれがすこし不思議だ。
 気付くと傍には看護婦がいた。白衣ではなく薄い桃色の制服を着ていた。