十 新しい石鹸
■ 昼過ぎにモーテルを出た。
昨夜買ったリザーブは三倍の値段がした。そういうものだろう。持って帰ることにした。途中、沿線のレストランで、トマトのスープとサンドイッチを食べた。
首都高速を天現寺で降りるといくつかの坂を昇る。
歩道に半分乗り上げてカマロを停め、自分の部屋に一旦戻ることにした。
風呂の壁に薄いカビがはえている。
浴槽の水を入れ替え、コーヒーを沸かし、留守番電話と郵便を整理して暫くぼんやりした。
「なんでこんなに汚い訳」
葉子が掃除を始めている。台詞まで同じだ。
携帯電話を呼び出すと、暫く鳴ってから晃子がでた。
「退屈で死にそうよ」
風呂に入ってからでかけることにする。下着を取り替えた。
芝浦の倉庫に着くと、葉子は部屋に入るのをためらった。構わずに入る。
「ドライヤーを忘れたのよ」
晃子は髪を縛っていた。口紅の色が新しい。昨夜も吉川がきて、ドアの外に眠っていたという。晃子が指さすと、「社に顔を出してきます」と書かれたメモがあった。字は旨い。
「あの人、昼間は普通のネクタイなのよ」
夜までは戻るまい。税関の傍のビルを確かめようと思っている。
ビルの名を葉子に尋ね、晃子を連れて外に出た。葉子は部屋に残った。
「二日ぶりに外にでたわ」
「風呂に入ったか」
「ええ、奥山さんが石鹸を持って来てくれたでしょ」
晃子はなんだか楽しそうだ。
「元町によってね。服をみるから」