■ 私たちは紙コップで薄いコーヒーを飲んでいた。
 奥山が一度外に出て、幾つかのものと一緒に持ち込んだのである。
「わたしが資料室の端末を操作したことが知られたのね。アクセスの記録が残ることを忘れていたんだわ」
 晃子が言う。
「うちの社にもシンパはいる。裏で組織へ情報を流したり援助を行っているんだ。金が絡んでいる。フィリピンや中国ってのは、今じゃ共栄圏のひとつだからな」
 吉川が言うと、どうしてかもっともらしい。
 CPPは直接表面に出ないが、様々なかたちで日本の企業・団体に接近を謀っていると晃子が説明した。どのような形かは定かでない。公安も一定部分では掌握していて、慰安婦に関係する特定の団体が抗議行動をする場合、機動隊の車両が待機していることもあるという。背後に過激な組織が関与していることを薄々掴んでいるからだろうか。
 
 何本煙草を吸っても一定のところからはみえなかった。
 私は何を聞くべきかを忘れていた。吉川が箱を壊し、羽毛布団を取り出してきた。ドアの向こうで眠るという。
「大丈夫ですよ、あのひとは。見掛けよりも純情なんです」
 奥山が言う。なんだかそんな気もする。携帯電話を晃子に渡し、私は東金に戻ろうと思った。後のことを頼んで階段を降り、BMWに戻ることにした。