■ 千葉へ続く背の高い橋がみえている。
港は狭くなり、その脇にはクロームと模造大理石が貼られたビルが幾つも並んでいる。
この辺りにビルができ始めたのはここ数年だ。中程はいつも空いている。夜になっても蛍光燈がつかない。倉庫はその一角にあった。隣接する比較的広い駐車場に車を駐め、四階までの階段を私達は昇った。吉川が晃子の荷物を持った。
「エレベーターの電気がないんだ」
吉川が振り向きながら言う。中に入ると段ボールが無数に詰まれている。
「売れ残った羽毛布団だ。ここなら匂いもない」
廊下のようなものを進み、一番奥の部屋の鍵を開けると、そこは整備された個室になっていた。見たところ、普段泊まるビジネスホテルよりまともかも知れない。簡単なソファとカーテンで仕切られた奥にベットがある。
「まあ、ここに居るしかない訳ね」
晃子は黒いビニールのソファに座り脚を組んだ。もういいんだ、という顔をして窓を眺めた。芝の方角、タワーからはだいぶある。
「さっきの女は残留二世でね、北京の大学を出ている。結婚もしていたようだが、別れてこちらにきているんだ」
吉川が説明する。スタンドの女のことを言っているのだろう。
「暫く前まで銀座でホステスをしていたが、今はそうした二世の連絡係のようなことをやっている」
「吉川さん、だいぶ通いましたね」
「うるせえんだよ」
私は奥山のがっしりした腰のあたりを眺めていた。とりあえず、こいつに任せておけば良いだろうという気になった。
「それはそれとして、なんで銃の弾を持っているんだ」
「そんなものは幾らでも手に入る」
吉川はうそぶいた。
「昔、俺はあの辺りで捕まったんだ」
吉川は窓から細い運河のようなものを指さしている。誰もきいていない。もういいんだよ。