■「こいつはうちの社のものじゃない。だから安心していい」
吉川はそう言った。
私は階下にコーヒーを注文することにした。三角のカップで、濃いコーヒーが運ばれてくる。角砂糖がふたつ付いている。
「トカレフは丈夫ですが、消耗品だと考えた方がいいですね」
奥山という男が言う。私達はコーヒーをすすった。胃の奥を探るような気分だった。
「実は、隠れる場所がいるんだ」
「どういうことだ」
吉川が大きな目を光らせる。
「女なんだ。葉子じゃない」
私はきしむ階段を降り、車に戻って晃子を案内した。吉川は暫く黙って晃子を眺めていた。
「北沢という男を知ってるか」
話しかけても吉川には聞こえない。
「芝浦の倉庫はどうです。あそこなら管理用の部屋が空いている」
奥山が促して、私たちは車に分乗することになった。
山手通りを横切り、青山から広尾へと抜け道を通る。奥山の運転は危な気がなかった。丸くなる前のセドリックで先行する。
「どうでもいいけど、寒いのはごめんだわ」
晃子は化粧したジプシーのような横顔で煙草を吸っていた。
産業道路に入り、スタンドに寄る。
モノレールの橋桁の間から店に入った。奥山は指を立て、三十リッター入れるよう指示している。
髪を後ろで束ねた女がガラスを拭いている。断片的な言葉で、日本人でないことがわかった。夜は寒いのだが、短いスカートを履きタイアを確認している。三十手前くらいだろうか。金を払いながら奥山が何かを受け取っている。鍵のようだ。