■ 私は殴ることもせず、それを眺めていた。
胸の底に溜まっている残忍さに私は気付いている。
氷を足すよう葉子に言った。グラスに二杯目を注ぐ。
「昔、福島の原発をみにいったことがある。外れたところに飯場があって、そこに沢山の男や女が居た。その時、居酒屋で酒を注いでくれた男にこのあいだ会ったんだ」
「都庁の後ろにある公園だった。写真をとるので夕方までいると、箱を抱えて制服に追い立てられている。奴はまだ若いんだ。フィリピンの女と結婚していた」
「それで」
「それで、間に入った訳だ」
「女とは別れていた。奴は炉芯部の作業をしていた」
「じゃ、浴びる訳ね」
「そうだよ、躯がきかなくなってくるんだ」
「あなたは何をしにいったの」
「女を買いにさ」
私は葉子にいう。
「窓を開けろよ」
波の音がする。他には音がない。リゾート用に作られたこのビルは、コンクリの底から冷えている。
「どうするの」
「脱げよ」
下からだ、と私は言った。
ベランダに出るように。そこでしゃがむように。
細いタオルで手首を後ろから縛り、もうひとつ目隠しを葉子にする。
「同じことをしようじゃないか」
みるみる鳥肌が立ってくる。寒いというが、聞こえない。
浴室に連れてゆき小便をした。頭からお湯をかけた。
Tシャツが濡れている。葉子は息ができない。
口をあけ、訴えるような顔で上を向いている。
叫ぶようになってゆく。その声は多分海岸まで届いた。
底のない水のようで、それからは一定の段階が続いている。
屋上のコンクリの上に葉子は立っている。立ちながら、泣いているのがわかった。五分したら戻るように。