七 スープ
 
 
 
■ 机に置いてある雑誌をもう一度眺めた。
 その時、確かに葉子はよろこんでいるかのようにみえる。葉子は何色なのか。色が混ざるのだとして、男だけの色ではないような気がした。
 
 葉子がドアの前に立っている。ぺたぺた裸足で階段を降りてきたのだ。
 唇が震えている。浴室につれてゆき、バスタブにお湯を張り葉子の躯を洗った。窓の外は風が吹いている。曖昧な気持のままそれを聴いている。
 タオルを使っていると、鞄の中で携帯電話が鳴った。アンテナを伸ばすと雑音が激しい。
「楽しんでいるか、そこは二三日大丈夫だろう」
 東銀座の男だった。
「おい、ありがたいオマケまでつけてくれたな」
「ビデオはもっと凄いぜ」
「おまえ、誰なんだ」
「ちょっとかして」
 横から葉子が電話を取った。
「吉川、父は何処にいるの」
 強い声で問いただしている。
「そう、そうなの」
 葉子は電話のスイッチを切った。
「どういうことなんだ」
「まって、ゆっくり話すわ」
 電話を低い椅子の上に置き、葉子はドライヤーを使った。背中を向け、指だけで短い髪を流している。
 いつもこうだ。まって、と言われ、待ってみると機会を失う。
 隣の部屋にベットがあった。薄い毛布がかかっていて、葉子はそこで寝ていたのだろう。私は横になった。ぬるいものに吸い込まれ、すぐに眠りに落ちた。