■ 女は人のために泣くことはない。
 泣きながらそれがどういう効果を持つか知らずに計算をする。
 葉子は膝を折り、手で顔を隠している。
 声の調子が波のように変わる。窓を開けると波の音か、空気がざわついている。暫く眺めていると葉子は泣きやんでいた。葉子は煙草を吸う。唇をまるめて煙を吐き出す。
「おととし、アメリカとイギリスに留学したの。そこで薬と男を覚えたわ。戻ってきて、ボランティアの活動に入ったの。今の生活がイヤだったのね」
 
 何処かで嘘があると思った。
 女の嘘は躯から入る。
「この写真は二十一の時よ。ビデオだってそうだわ」
 声の調子が変わる。
「そう、なんでもした。一晩で五人と続けたこともあったし、黒人は最高だったわ。中国のひとは硬いの、あなたよりずっとね」
 目線のない葉子の写真には陰毛がなかった。
 野外と風呂場で、腹の出た男達の下に膝まづいていた。
 葉子の眼が座っている。笑いだし、グラスに酒をついで冷たい紅茶のように飲んでいる。