■ 夜になった。
 私は通信社に勤めている女の友人を待っていた。
 女も三十を過ぎると、ショールを肩に巻くようなことはしない。
 表通りから一本奥に入ったホテルの十五階まで昇り、ほの暗いボックスに座った。
 グラスに軽く口をつけ、彼女はいきなり言う。
「あなた、何に巻き込まれたか知ってるの」
「狙われたんだ」
「バカね、殺されるかもしれないのよ」
 確かにそうだった。
「CCPの幹部、エドゥアルト・キトリアーノがね、この間逮捕されたの。そこで、JRA、〈日本赤軍派〉と関係があることをフィリピン国軍は公表したわ」
「あの、〈赤軍〉か」
「そうよ。そこでね、重信房子と連絡を取り合っていること、九○年スイスで発覚した総額百六十万ドルの偽金づくりに関与したこと、八七年、香港を拠点に〈一般基金〉という資金づくりプロジェクトに参加したことなんかがフィリピン国軍の手によって公表された訳」
 彼女はそこまでを一息に言うと、探るようにこちらをみた。私は黙っていた。何を言って良いのか判断がつかないのだ。
 
「みなさいよ」
 彼女は一枚のコピーを渡す。
「タイのバンコク・ポスト。オランダ政府の対外援助金がフィリピンの労組を通じてCCPに流れた訳。オランダでは国会で問題になったわ。CPPのシソン議長はオランダに逃亡しているのよ」
「日本にもいるのか」
「あなた、鈍いところはちっとも変わらないわね。第一、その葉子って娘の口からでてるじゃない。CCPの今の資金獲得の対象は日本とオーストラリアなの」
 わかったような気がしたが、何処かで霞がかかっている。
「じゃ、なんでボランティアにかかわるんだ」
 彼女は呆れた顔で私をみた。
 中心には黒い瞳がある。