■ 私は街に出ることにした。
足りるかどうか、あるだけの現金を持ち、麻のズボンを履いて車を拾った。
波止場にて、粗いシャツを着ていたマーロン・ブランドは頬に脱脂綿をつめ、家族の愛について眼の下に隈を入れた。
ニューヨークの歌姫と呼ばれたヘレン・メリルはそれから太り、ママ・コルシオーネと呼ばれることになる。
表には出ないけれども、民族という境界というのは確かにある。
盛り場に行って、立っている看板の文字を眺めてみると良い。近くには眼光の鋭い若い男が立っていて、スーツのズボンでは入ることが出来ない。乱れた英語を使い、すくめるような視線に耐え、私は店に入る。
強い香水の匂いが漂い、それは半ば黒い肌の色を隠すもののようにも思われた。
有線が入っているのだろう。ダイナ・ワシントンが澄んだ声で歌っている。
安いスカーフを腰に巻いた女が傍による。
私は色のないテキーラを頼むことにした。
男達の視線がすこしだけ他に逸れる。フロアの中では、靴クリームのような肌色をした男と女が手を振り腰を揺らしている。
新宿。その外れの街で、私は弾を買うことはできなかった。
そもそも、何の為に買おうとするのかわからなかった。