三 九月
 
 
 
■ 私は日常に戻った。
 夏はゆるゆると過ぎ、短い女と別れた。エアコンのフィルターが汚れている。冷蔵庫の扉に磁石があって、間に紙が挟んである。燃えないゴミは木曜なのだ。
 九月になった。取材にゆくひとを送りに空港まで出た。
 長い橋桁を渡ると、見通せる食堂がある。夜なので、蒼い光が繋がっている。
「でね、こんどはさ」
 彼も彼女も、とりあえずのコンセプトということを語っている。皿は奇麗だが、輸入された牛の内蔵を混ぜ合わせたハンバーグを食べている。
 部屋に戻り、ソファの上で紙袋を開いた。袋はビニールコーティングしてあり、中にはハンド・タオルに包まれた拳銃がある。
 弾倉を開くと、二発使われていた。思ったよりも硬いスプリングを親指
で押しのけ、銃弾のひとつを取り出してみた。先は鈍い鉛になっている。弾を指先で暫く廻してから、唇に挟んでみた。案外に重い。舌を尖らせると曇った味がする。