■ うたたねを過ぎると、私は自宅の留守番電話をきいてみた。
「残念だね、君ならわかるとおもったんだが」
 社長の声が吹き込まれている。
「食事だけのつもりだったんだがね」
 嘗めるような映像の秘密はおそらくそういうことで、決して諦めない白いシャツの襟のかたちに似ている。私はむせるような薔薇の匂いを思いだした。
 
「車の鍵を貸してよ」
 夕方が過ぎ、葉子がそう言う。
「下着も買ってくるわね」
 私は車を出し、伊勢崎町の角で運転を替わった。
 シートを前に出し、黒いゴムで髪を束ねている。ヒールを脱ぎ、助手席の下に放り投げた。カセットを眺め、サンボーンじゃ間が抜けているわね、と言う。私は言い訳をしかかった。
「先に帰ってて」
 言い放すと、いきなり車線に割り込んだ。後ろのタクシーが怒る暇さえなかった。