■ ニュウ・グランドのロースト・ビーフはそのものの色をしている。
 ほとんど味はなく、こうなのだと言われれば納得をしてしまう。
 内側が古くなった桃色で、一番端の部分は紫にも似ている。胡椒なのか、つぶつぶがみえている。
 運河沿いのホテルに私達は入ることができた。
 すり切れた絨毯が引いてある。昔は色がついていたのだろう。フロントで前金を払うと、広くて鈍いエレベーターに乗った。
「こっちは下士官のホテルなのよね」
 進駐軍がいた頃の話だ。
 一本運河を越えるとめっぽう格が落ちた。
 連れ込んだ女もそうだったのかはわからない。
 誰に聞いたのか、そんなことをよく知っているなと私は思った。
 
 雨の多い夏が過ぎてゆく。
 部屋は湿っていて、色の褪せた厚いカーテンが掛かっている。
 机のようなテレビがあって、チャンネルはダイアルを廻すようになっていた。上には埃と造花がある。
「ねようか」
 私は葉子の足首を眺めた。糞かき棒のようではなかった。いつかとは別人のようだ。
「いつも、おんなの人の前でおしっこをするの」
 堤防からする小便は片方で光っている。
 音がきこえるのだが、遠すぎて風のようでもある。