15 の 夏。
■ 昔、玩具という源氏名の芸者がいたと、誰かの花柳小説に書いてあった。
なかなかのネーミングである。
私はと言えば、地下に降り、AMGのエアクリーナーを交換していた。
ボンネットを直角に近くあげ、備え付けのライトで照らしながらである。
自分からエンジンの整備をするのは久しぶりで、汗が滝のように流れるのも苦にならない。
整備の時にエアを吹いたというが、捲ってみると虫の死骸などが挟まっている。
雑巾を絞り、内部を繰り返し拭いていた。
■ 0-30Wとかのオイルを入れると吹けはよくなるけど、メタルが持たないよ。
と言ったのは麻布の裏手にある自動車屋の親父である。
面白いし速いけど、金かかるよこれ。
と、ニコリともしないで脅かす。
隣ではレクサスの新しい奴のボンネットを開け、整備工二人が、手が入んないねえこれ、カバー外さないと、などと言っている。
メタルというのは、コンロッドの辺りを指すのだろう。
かつてOHV二気筒の単車で、何度かここを焼きつかせたことがあった。
■ 夕方からの打ち合わせが夜になって、その後、流すことにした。
エアクリーナーを換えてすぐはアイドルが若干高くなるのだが、暫くするとCPUが認識して500prm 辺りに落ち着く。確かに車は軽くなった。
普段、決して汗をかくこともない私だが、撮影のときと車の時だけは別である。
まだガキだった頃、50のバイクがガス欠で、炎天下半日押して帰ったことを覚えている。リザーブになっていることを知らなかった私は、15だった。