愛人。
 
 
 
■ 私は声が低い。
 何時だったか麻布十番の辺りをうろうろしていて、店のドアが開き、流れてきたのが「愛人」の中国語版だった。香港で客死した彼女の歌である。
 散々遊んで転がして。
 と、浅田次郎さんが書いていたかのような、一見薄幸そうに見えて実は腰の太い、いわゆるそういった仕事に関わる方々のテーマソングのひとつである。
 
 
 
■ 上海のカラオケスナックで、それが流れていたことを思い出した。
 何省から来ているのか。ほぼモンゴル付近ではないかと思われる彼女が太い腕でマイクを握る。少し毛深い。
 私はデジタル一眼でその姿を撮ったりもしたのだが、液晶で彼女達に見せるための場繋ぎであった。
 思い出すと緩やかに嫌味なものだ。