- BREAKFAST AT TIFFANY'S -
ホリー・ゴライトリー、トラベリング。
■「ティファニーで朝食を」の映画が封切られた1961年は、J・Fケネディが大統領に就任した年である。
映画にも小説にも直接関係はないが、どんな時代だったをすこし書いてみる。
61年4月、CIAが組織した亡命武装ゲリラ1400名がキューバのビックス湾に上陸。
首都ハバナから90マイルのところにある入江である。
そこからゲリラ戦を行いカストロ政権を転覆しようとするが、失敗。
三日で鎮圧される。
当時ケネディは、キューバに侵攻する計画をマスコミの協力の下、国民には知らせていなかった。
東西冷戦最大の危機、全面核戦争の手前までいった、いわゆる「キューバ危機」は翌62年10月。このビックス湾事件は、その前哨戦としての位置づけになる。
■ 話は飛ぶが、ヒッチコックの「北北西へ進路を取れ」も、冷戦構造を前提とした映画であった。ヒッチコックにはダブル・スパイのブロンド美人という設定が多い。
しかも敵方の情婦であるという、いささか屈折した役柄が与えられ、大人というのは一筋縄ではいかないと私などは思っていたが、後から考えるにこれは、ヒッチコック特有の資質、ないしは嗜虐であるともいえる。
今微妙に思い出すのは、個室付の寝台特急で、ケーリー・グラントがヒロイン、エバァ・マリー・セイントの鞄を点検する。
すると無駄毛の手入れ用の小さな剃刀が出てきて、グラントがふむふむと唸る。
場面が展開して、翌朝グラントがそれで髭を剃っているという按配。
駅の洗面台で、周りの男たちに白い目で見られるというところがあった。
ユーモアと言えばそうなのだが、どうも底意地の悪いところもある。
■ ところで、映画の中のオードリーは、ジヴァンシーがデザインした衣装を効果的に着こなす。
ブロードウェイ五番街にあるテイファニー本店の前で、クロワッサンを朝食にするシーンでは、長い手袋と大きめのサングラス。そして黒いイブニングドレスである。
髪はアップに上げている。
確か冒頭のシーンなのだが、この意表をついた洒脱さは、さすがに「ピンク・パンサー」で手馴れた感触であり、NYの朝の気配を微妙に映し出していた。
意外に思われるかも知れないが、NYというのは静かな街である。
ブロードウェイの喧騒はすさまじいものがあるけれども、そこからブロックをひとつ隔てると、誰もいない空間があったりする。そこに立っていると、ふっと背中を撫でられたような気がすることがあって、振り向いても誰もいない。
明け方のブロードウェイを歩いたことがあるが、これで薄い霧が出ていると、ほぼこの映画の通りであった。