- BREAKFAST AT TIFFANY'S -
    トイレで50ドル。
 
 
 
■「ティファニーで朝食を」のヒロイン、ホリーは高級娼婦である。
 マリリン・モンローのエージェントが当初その役を断ったのは、そのせいであるという話もある。
 確か当時のモンローは、今までのセクシーな役柄から脱皮しようと暗中模索の段階だったと記憶している。正確な年数はすぐ出てこないが、アクターズ・スタジオで演技の勉強を始めたりしていた。
 
 
 
■ 数年前だったろうか。マリリンの始めの頃の夫が撮影したという写真の版権をどうにかしたいという話が私のところにきた。
 浮世の付き合い、麻布界隈の事務所に出向き話を聞いた。
 結局、エージェントのまたエージェント、その営業の打診という意味合いが強かったのだが、その後で広尾界隈を歩く。
 マリリンには女性のファンが少ないよね。比べてヘプバーンは、どういう訳か女性に好かれる。
 そんな話を、国際交流基金とキャリア組の官舎がある路地を歩きながらした覚えがある。
 白金にできるだろう高層マンション、その工事中の壁面にも若い日のヘプバーンの写真が使われていて、「麗しのサブリナ」の頃のスチールだっただろうか。
 眉毛の形が濃く、すこし太めにカットされているものだった。
 
 
 
■ アメリカのトイレはチップ制のところがあり、女の子がゆこうとすると同伴の紳士は小銭を渡す。
 
 そのくらいのお金だったら、お化粧室に行けばできるからね。ちょっとシックな殿方だったら、50ドル札くらい出してくれるわ。それにわたしはいつもタクシー代も請求するのよ。それであとの50ドルができるし(前掲:40頁)。
 
 ホリーはそういう。
 映画の中でもそんな台詞があったが、ジヴァンシーの黒いドレスに紛れ、あるいは長いシガレットパイプの優雅さに惑わされ、意味するものを考える暇もなくお伽話に飲み込まれてゆく。
 ヘプバーンのすこし頬骨の張った、どちらかといえばセクシーさとは無縁のストイックな体躯が、老人の世話をして対価を貰うなどということの具体性を忘れさせてしまう。
 監督はブレーク・エドワーズ。
「ピンク・パンサー」のシリーズを手かけた、都会的な感性の職人である。