十二月のこのまっくらな真夜中に 3.
 
 
 
■ NY、グランドセントラル駅地下にある浮浪者のための宿舎のことを書いた本があった。ある黒人が記したものだ。
 彼はフリーペーパーを作り、それを売る。浮浪者でありながら、半ばジャーナリストであるかのようにも視える。麻薬を媒体にして、表現と実生活のあいだを行きつ戻りつする。
 数年前すこし話題になった。私は新刊で買い、それから古本に持っていった覚えがある。何故なのか、説明することは難しい。
 
 
 
■ 色川武大こと、阿佐田哲也さんの小説に、馴染んだ娼婦に明け方の味噌汁を振舞われる話がある。
 色川さん名義の「怪しい来客簿」だったかも知れない。
 味噌汁の中にハムの塊がごろんと浮いていて、味噌はただ塩の味だけがする。
 滋養をつけなさいね、という女郎の心遣いである。
 坊や哲、こと若き日の色川さんはそれを飲むというか喰う訳だが、半分はモテたと思っていた明け方の自惚れは、肉色に着色される。
 つまり、いい気になるなよ、と言われていることにほぼ等しいのである。