この里にすむひと 2.
 
 
 
■ カメラを持たない散歩というのは楽である。
 持っていると、つい被写体を捜してしまうからで、緑坂 3390 も、海の傍の堤防に頬をくっつけるようにして撮った。
 傍から眺めると、あのひとはなんで堤防にくっついていているんだろうと思われただろうが、夕方の漁港近くには人影がなかった。
 
 
 
■ あるときカメラの雑誌を眺めていて、自然を題材にする写真家の車の特集をしていた。四輪駆動であったりワンボックスであったり、様々だが、大抵は皆さん車の中に布団を持ち込んで寝泊りしていたりする。二段ベットになっているものもあり、ほとんどキャンプに近いところもある。年間それで4?5万キロも走るという。年に150日ほどとか。
 私はやや呆れたが、もしもう10歳も若ければそちらの方向にいっていたかも知れないという気もした。
 写真に限らないが、道具を使って表現する立場の人間は、どうしても深入りする傾向がある。一回は道具や状況に徹底的に凝る。徹底の度合いが、ええい、泊り込んでしまわなければ明け方のこの山は撮れない、ということなのだろうが、山に登るのはしんどい。
 
 
 
■ いつぞやの「花電車」に誘ってくれたカメラマンは普段、CMの仕事をしている。
 彼はシャコタンのメルセデスワゴンに乗り、ラーメンを5分で食う。
 皮シートはヒーターで暖められ、あったかいじゃん、と言うと、モデルさんを乗せるには不可欠な装備であると言っていた。
 持ち場によって、ノウハウは違うものである。