怖いよ怖くないよ。
 
 
 
■ 昔「タイフーン」という雑誌があって、特集がハードボイルドである。
 監修が矢作俊彦さん。矢作さんがまだ20代終わりくらいの頃だ。
 チャンドラーからハメットまで、あるいはライアルの辺りまでを、若さにまかせて薀蓄し、画像をコラージュしていた。
 今も書棚の何処かにしまってある。
 
 
 
■ 中に、ボガートがよれよれのスーツを着て、38口径のリボルバーを持っている写真がある。珍しくボガートが脅えたような顔をしている。
 映画自体何なのか、俄かに判断できないが、ほぼクライマックスのシーンであることは明白だった。
 大体、この手の小説や映画というものは主人公がボロボロになるもので、普通だったら止めておいた方が妥当だろうと思われる状況で傾いてゆく。
 つまり、負けを知るというところから始まるんだよ、というのがひとつのセオリーになっている。
 怖いよオカーチャン、と言いたいのを堪えて男の子は立つ。
 半ズボンに二挺拳銃をぶらさげてだ。